2025年5月30日金曜日

サイパン戦関連の書籍紹介

今まで艦船模型を作っていたので海軍の書籍などはよく読んでいていましたが、今回のサイパン戦がテーマの模型を作るにあたり、関連書籍をいくつか読んでみました。

サイパン戦は民間人の方々を巻き込んだ凄惨な戦いで、見るのもしんどい場面もありますが、戦いの経緯、経過、敗因、そして日本統治時代の開拓や島の発展、敗戦によりすべてを失うなどが知ることができました。


● サイパン肉弾戦:玉砕戦から生還した参謀の証言

平櫛孝著

著者の平櫛孝氏はサイパン守備隊の第43師団の参謀としてサイパンの防衛戦を戦い、最後の総攻撃参加時に負傷し米軍の捕虜となり生還され、後年本書を執筆されています。

師団司令部から見たサイパン戦が綴られています。5月19日、住民の歓呼の声に迎えられて師団主力が上陸したものの、僅か1ヶ月半後には玉砕の運命をたどりました。しだいに米軍に押されていく戦闘経過は見ていて陰鬱な気分になりますが、本書ではサイパン戦の起きた背景や防衛準備、米軍の上陸からの戦闘の経緯が書かれ、サイパン戦の内容が理解しやすいです。

資材不足や築城の時間が無く防衛体制が不十分の中で奮戦された守備隊に対し、大本営からは自分たちの判断ミスでマリアナの防衛体制を整えるのが遅かったのに「現場の努力不足だ!」と叱責するのは現代の社会でもままあることだと感じます。



 ●新版 戦火と死の島に生きる

菅野静子著

著者の菅野静子さんはテニアン島の開拓移民として幼い頃山形県から移住され、一家で大変な苦労をされながらも生活が安定し、著者も学校卒業後サイパン島の貿易会社で就職、そんな時に米軍のサイパン上陸に巻き込まれます。

米軍の攻撃により次々と周りの方の命も失わられていく中、野戦病院に看護婦として志願し傷病兵の看護にあたられます。著者の献身的な看護で心が救われた負傷兵も多かったでしょう。運良く生き残れた著者は収容所でも看護師として働き沢山の人を救っています。

文章も読みやすく、当時の年代の近い著者が必死に生き延びた体験を知ってもらえればと中高生の方にも是非読んでいただきたい一冊です。

そして、著者のお母さまは米兵より強い!



● 日本領 サイパンの一万日

野村進著

第一次大戦後、日本の国連信託委任統治領となったサイパン島をはじめ南洋諸島、敗戦で失うまでの一万日の軌跡を二つの家族の物語を軸に書かれています。

開拓当初はサトウキビの不作や移民の待遇の悪さなど、かなりの苦労を重ね、次第に町が発展していき南洋興発の事業も軌道に乗りサイパン島は砂糖の一大産地として栄えます。

しかし、戦局が悪化し、遂に米軍が上陸し、苦労して築き上げたサイパンの街並みもインフラも破壊されてしまいます。辛苦に耐えようやく安定してきた暮らしが消えてゆきます。

この後も迫りくる米軍からの逃避行が描かれ読んでいて息苦しくなる場面が多々あります。

そして終戦を迎え、日本領としてのサイパンの1万日は終わりを告げます。

ページ数も多く読むにもかなりの時間の必要なノンフィクション大河小説です。日本統治時代の良い面も悪い面も両方描かれていて戦前の南洋統治に興味のある方にはお勧めです。


●タッポーチョ 太平洋の奇跡

ドン・ジョーンズ著 中村定訳

竹野内豊主演で映画化された「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」の原作です。

米軍として従軍した著者がサイパンでの最後まで抵抗を試みた部隊を率いる大場大尉に感銘を受け執筆された作品です。

映画は以前見たことがあり、原作との場面が違う箇所もあり見比べて見るのも良いと思います。映画ではあまり描かれていなかった大場大尉の心情なども見ることができます。

正直、冒頭のジョーンズ氏が大場元大尉邸に尋ねる場面などの日本語訳がひどすぎて読むのがきびしいかな?と思ってしまいましたが、サイパンでの大場大尉のパートでは比較的読みやすかったです。



 ●サイパン戦車戦 戦車第九連隊の玉砕

下田四郎著

著者はサイパン戦で玉砕した戦車第9連隊の生き残りです。

入隊後、満州で過酷な訓練を行い技量を高めた著者たち戦車連隊の将兵に南方への進出が命じられます。極寒の大地から常夏の島嶼への移動、戦車壕が完成してようやく休暇といった時に米軍が来寇し、不利な状況で精鋭部隊も一晩にして壊滅しました。サイパン玉砕後の過酷なジャングル生活、投降後の収容所生活も記述されています。

戦車戦は数時間で終わってしまったのでサイパンでの戦闘自体の内容は少ないですが、戦後著者がサイパンで出会った朽ち果てた97式中戦車と出会い、幾多の困難を乗り越えて日本への帰還を成功させるまでの道のり、共に戦った戦友と戦車への想いには心が打たれます。

戦後の収容所での米兵との良好な関係を見ていると、つくづく戦争以外の解決策はできなかったのかと感じます。




 ●サイパン機動防御戦 一式砲戦車激闘譜

陰山琢磨著

珍しい日本軍戦車の仮想戦記です。

九七式中戦車の車体に九九式88ミリ高射砲を備えた一式砲戦車が開発され、搭載砲の威力は強力だけど操作は難しいこの車両で圧倒的物量のサイパン侵攻部隊に防御戦を展開する話です。

史実よりも早く戦略を防衛に変え、より強固な陣地を備えたマリアナ諸島で、史実より少し良い兵器を装備した日本軍が米軍を迎え撃ちます。

上陸時の艦砲射撃は創作ものとはいえ恐ろしいものがあります。サイパン全島の築城やチハから1式砲戦車への改造などの準備作業や米軍上陸後の息の詰まる攻防戦などが見どころです。



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